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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)3681号 判決

原告

株式会社サンコー

右代表者

新川晃三

右訴訟代理人

岩田喜好

外二名

被告

日本精密測器株式会社

右代表者

石坂寛

右訴訟代理人

松田敏明

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金二、一〇〇万円及びこれに対する昭和四九年五月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一、請求の原因

1  原告は医療器具等の販売を目的とする会社であり被告は電気計測器、医療機械器具等の製造修理を目的とする会社であるが、原告は、昭和四八年七月二六日、被告との間で低周波治療器NT―〇二(商品名サンケルス―以下本件治療器という)の製造委託契約を左の約定で締結した。

(一) 納入単価一台一万五、〇〇〇円

(二) 納期及び納入個数

昭和四八年一〇月末 三〇〇台

同   年一一月末 四〇〇台

同   年一二月末 三〇〇台

昭和四九年一月末 四〇〇台

同   年二月末 四〇〇台

同   年三月末 六〇〇台

同   年四月末 六〇〇台

計三、〇〇〇台

2  被告は、右約定の最終履行期である昭和四九年四月末日を経過してもその債務の履行をしない。

3  原告は被告に対し、昭和四九年七月一五日到達の内容証明郵便で書面到達後一周間以内に履行をなすべく、これを怠るときは本契約を解除する旨の催告並びに条件付契約解除の意思表示をしたが、被告は依然履行をしないので本契約は右催告期間の満了日である同月二二日の経過と同時に解除された。

4  原告は被告の右債務不履行により左の損害を被つた。

得べかりし利益金二、一〇〇万円

販売予定単価金三万円、仕入単価金一万五、〇〇〇円、一台あたりの一般管理販売費等の費用金八、〇〇〇円、販売予定台数三、〇〇〇台であるから純利益総額は{金三万円−(金一万五、〇〇〇円+金八、〇〇〇円)}×三、〇〇〇台=金二、一〇〇万円となる。

原告は本件治療器を訴外株式会社サンケルスに対して一台あたり金二万三、〇〇〇円から金二万五、〇〇〇円で、三〇〇〇〇台完売する予定であり、昭和四八年度の中小企業庁の調査によれば、日用品雑貨卸売業の販売費用は対売上高比率平均6.1パーセントとなつているから、これらによれば右純利益総額は少くとも金6,900万円−(金4,500万円+金6,900万円×100分の6.1)=1,979万1,000円を下ることはなかつた。

5  よつて、原告は被告に対し、被告の債務不履行に基く損害賠償請求として、金二、一〇〇万円とこれに対する最終の履行期の翌日である昭和四九年五月一日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。但し納期の定めは一応の予定にすぎず確定期限としての納期の定めではない。現実の納期は原告の現実の発注を待つて定まる。

2  同2の事実は、最終の履行期であるとの点を除き認める。

3  同3の事実中、同項記載の契約解除の意思表示がなされたこと、被告が債務の履行をしなかつたことは認める。

4  同4の事実は不知。

三、抗弁〈以下―省略〉

理由

一請求の原因1記載の契約が当事者間に締結されたことは当事者間に争いがない。

被告は、右契約上の納期についての約定は一応の予定を定めたもので、具体的な納期は原告の現実の発注を待つて定まるもので、従つて右契約上の納期の定めは確定期限を定めたものではない旨主張し、証人柴田忠晴、同田端正夫の各証言中には右に沿う部分がある。しかし、〈証拠〉によれば、本件の契約書には、原告が被告に対し初回三、〇〇〇台の本件治療器を発注し、被告はつぎのとおり生産納入するという文言が記載されていること、当初被告側は(ロ)の承認を得る期間を考慮に入れて、昭和四八年一〇月ころには本件治療器の製造が可能である旨考え、本件契約書を作成したことが認められるから、右契約上の納期の定めは確定期限を定めたものと認めるのが相当であり、前掲各証言は信用することができない。

二原、被告間において本件治療器の第一回目の納期を、昭和四八年一〇月末日から昭和四九年四月末日に延期する旨の合意が成立したことは当事者間に争いがないところ、被告は右延期された納期に、本件治療器を納入しなかつたのは、債務者たる被告の責に帰すべき事由に基づくものではない旨主張するので、まづこの点について判断する。

本件治療器を製造するためには、抗弁2、(一)の登録や許認可が必要であること、被告は昭和三八年本件治療器と同種の「JM式低周波治療器」を製造したが、当時は厚生大臣による薬事法に基づく(イ)の許可及び(ロ)の承認のみで足りたこと、抗弁2、(五)記載の経過により納期を延期する旨の合意が成立したこと、昭和四九年九月二七日に至つて(ロ)の認可が得られたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。〈証拠〉を総合すると抗弁2、(一)ないし(二)記載の事実のうち前記争のない事実を除く事実をすべて認めることができるほか、抗弁2(七)の安全装置の附加は、昭和四九年四月以降電気用品取締法に関する通産省の省令改正により義務づけられることになることを考慮したものであることが認められ、原告代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしてたやすく措信できず、他に右認定を覆するに足る証拠はない。

右争いのない事実及び右認定の事実によれば、被告が昭和四九年四月末日の延期された納期を徒過したのは、同時期まで厚生大臣による(ロ)の承認が得られなかつたためであり、同時期までに右承認が得られなかつたのは、(二)の認可を得るために行つた電気用品試験所における甲種電気用品試験に約三・五か月を要したため、右認可申請が遅れ、それに伴つて昭和四九年三月二九日に至つてようやく右承認申請の運びとなつたこと及び右申請から厚生大臣の承認に至るまでに約六か月を要したことにその原因があるものと認められ、従つて被告または被告と同視すべき履行補助者以外の第三者の許における事由によつて納期を徒過せざるを得なかつたものと認められる。

もつとも被告において(ロ)の承認を得るため厚生大臣に対して一旦提出していた申請が、ノイロメーターの感度の関係で不合格となつたことは前認定のとおりであり、そのことが右承認を得るまでに長期間を要した一因をなしているものと認められるのであるが、前認定のとおり、右不合格は厚生省部内における公表されていない内規の変更によりもたらされたものであるところ、被告としてこのような未公表の内規をも調査すべき義務があるものとは到底考えられないから、この点について被告に過失の責があるとはいい得ないものと思料する。

また原告は被告が(ハ)の登録及び(ニ)の認可を要することを知らなかつたこと自体に過失がある旨主張するけれども、前記のとおり、右登録ないし認可を要することが判明したことによつて前認定のとおり納期の延期されたのであるから、たとえ右の点を知らなかつたことが過失に当るとしても、そのことと延期された納期を徒過したこととの間には因果関係がなく、従つて右過失は被告の責に帰すべき事由の判定について問題にならないものと考えられる。さらに前認定の事実によれば、被告の行つた各種申請手続に関する時期、内容には何ら本件契約にもとる点は見当らず、申請後においても再三関係官署に問合わせを行つているなど被告としてとり得る措置はこれを講じているものと認められ、この点についても被告に善良な管理者の注意義務を欠くと認められる事跡はない。

そうすると、被告が本件契約の履行を遅滞するに至つた事由については、将来の改正省令に対処するための試作品改造、ノイロメーターの感度に関する内規が外部に公表されていないこと、被告の督促にも拘らず官庁内部の手続が遅延したことが主要な原因をなしていると認められ、これらの事情は被告の責に帰すことのできない事由に因るものと解されるから被告の抗告は理由がある。

三よつて、その余の事実について判断するまでもなく、原告の被告に対する本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(志水義文 二井矢敏朗 中村直文)

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